concept of art work
坂内美和子展 ―LIFE(生命)series 4―
今回の個展によせて
昔、子供の頃は、当たり前のように四季がやってきたはず。だが、その季節感を充分味わって思いっきり遊んだり、浸った思い出はそれほど浮かばない。それは子供だったために、ひとつひとつのものを大切に心に留めていなかったからなのかもしれない。
そんな私でも大人になってからは、心境の変化からか、ごく自然に旅をするようになった。最初は無計画に動き回っていても、人間とは不思議なもので、結局はいつも同じような風景に立ち止まってしまう。全く違った場所を選んだつもりでも、自然と行きつくのは古民家やお寺、そして廃校_。それらはどれも何とも言えない懐かしい薫りを漂わせている。現代という時代の中でも伝統、あるいは古きものが共存している。東京にはない空の広大さや樹木のいきれ、葉に浮かんだ水滴、川の流れの音といった、自然の営みと季節の移り変わりに今さらながら感動する自分がいる。だが、そんな人間が求めている何気ない日常を、何か大きな力で徐々に破壊しようとしている。残念なのが、その大きな力とはつまり人間によって、なのである。
このような矛盾をはらんだ世の中を黙って見ているわけにはいかない。私は、この問題を今現在を生きるひとりの人間として、自分なりに絵画で表現してみた。それも、数年にわたって追求している『生命シリーズ第4章』として_。
私は、生命力に満ちた若々しさだけでなく、自然の流れのままに朽ちていく姿にも尊さがあるように思う。今の世の中は、自然のあり方にあまりにも逆行しすぎている。
今年は例年にない猛暑、台風の到来も多い。これも試練の始まりなのだろうか。ここにまた地震が加わり、あらゆる自然災害が次から次へと押し寄せてくる。人間に喩えるなら、まるで小さな不満を少しずつ吐き出していたのが、いよいよここに来て大爆発してしまったかのようだ。
昔から人類は常に争いごとをしている。特に社会が豊かになると、皆、欲の塊となる。それは加速こそすれ、抑えられることはまずない。かけがえのないものをなくし、心まで見失い、その果てには復讐_の繰り返し。私たち、人類は手の施しようもない方へと突き進んでいる。それでも私は今を生きているひとりとして、『調和』を願うのである。
しかし私はきれいな絵は描きたくはない。今、様々な矛盾や諍い、破壊に満ちている。むしろ私はそれを直視して、自分の中に取り込んで、自分の表現の過程にしたい。それが私にとっての世界や社会との関わり方である。
黒は闇(暗闇)の部分と言っていいだろう。または陰と陽の陰だったり、しまりを付けたいという全体の中での重要な役割_。今年の初めにトライしたコラージュ作品では、異物感を出しながらも油彩との組み合わせで共存させる工夫をした。新作の方は今までよりもナイフを積極的に使用して荒削りな凹凸感を出し、砂を使った部分はざらざらとした、不安定で複雑なものを表すように移行した。以前はフォルム同士とそれをつなぐストロークの間に一体感を持たせていた。「孤立しないストローク」である。最近ではフォルムそれぞれが自己主張をし始め、ストロークはむしろその間の架け橋のようになっている。こうした手法で、以前から意識している『調和』をもとに、ひとつの世界を築き上げている。しかしこれは予定調和ではない。こうして最近の私の作品には、必然と社会の流れを『生命』の中に取り入れるようになった。
今回の個展では今までよりも自己分析をし、精神力を高めることにも集中した。そうすることにより、身近な出来事や、世の中の流れも冷静に読みとれるようになったのも事実だ。それはまるで私自身がこの『生命』というテーマにコントロールされたかのように。
2004年10月 坂内美和子
|