concept of art work
坂内美和子展 ―LIFE(生命)series 3―
―個展コンセプト―
1.黒 最近の私の作品の傾向として、黒を使う比重が増えている。私が思うに、黒は何かを封印する色として意識されているのではないだろうか。しかしこの色は単に封印のシンボルやサインとして機能するようなものではない。黒はすべての色を包摂している。つまり全体そのものがそこに封じ込められているのだ。果てしのない広がりと深みがある。そこに何があるのか、私はのぞき込みたい思いにかられる。
具体的には作品の中に、かなり比重の高い色の役割として黒(漆黒)を用いている。しかし黒の持つ深みそのものを使う場合もあれば、そうでない場合もある。たとえば黒の中から、封印された色が透けて見える。そんな構図の作品もある。これは私の心境が図らずも出ているのだろう。
何かを封印する。それは個人的な思いであったり、社会的な出来事であったり、さまざまだ。しかしそれはいびつさを生み、バランスを狂わせる。最近の世の中はそうしたことが多いようにも感じられる。そうではない調和を願うために、こうした作品を描いているのかも知れない。
2.ストローク
私の作品の中では、ストロークは“孤立”していない。むやみに存在感を示すのではなく、他のストロークや絵画的要素と深い関連性を持たせている。
3.コラージュ
幾つかコラージュを試みた作品もある。実を言うと、以前から画面の中に絵具のみならず、何か違った素材を取り入れたいという願望があった。
2002年にまず取り組んだのが、紙とアクリルによるドローイングに和紙や乾燥させた植物、種などをコラージュさせる方法。これには私の無意識的な思いが関連している。水彩とアクリルは水をメディウムとする絵具。そこへ普通の絵画の技法ではなく、植物という生きたものを一緒に素材として使用することで、この絵具の持つ象徴性が明瞭となってくる。生命も水を必ず必要とするものだからだ。この作品には描く上でのプロセスもその重要な要素となっている。
象徴性だけでなく、こうしたコラージュの使用は、生命の持つ多様性を表すことでもある。コラージュ素材の持つ、異物感や起伏感、凸凹などの形でそれが現れてくる。生命はマットでフラットなものではなく、凹凸があり、ざわざわとした感触がある。
こうした経験を踏まえ、油彩では、水彩の発展形として木材を使用している。質感だけではなく、全体の画面構成の効果も狙っている。筆の動きにも似た、キャンバス上にリズミカルに配置された木材。木材を使うことで、キャンバスという一つの完結した世界の中で閉じないようにという意図がある。また写真の一部を虫眼鏡で拡大したような、リアリティの不連続性も念頭にある。自然のものを使うからといって、必ずしも予定調和的な優しさを目指したわけではない。
4.思い
ここ数年の私の中の大きなテーマは調和である。自分の中の色々な思いや意図が絡み合い、必ずしも一般に人々が思う“調和”の形とは少し違うかも知れない。それでも私は、さまざまな調和の形を描いていきたい。
ともあれ、完成された作品ひとつひとつどれをとっても、その時に感じ、思い描いていたこと、そして実際の制作などの状景が明瞭に蘇ってくる。今回の個展を踏まえ、今後もじっくりと絵画に向き合って制作していきたい。
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